2008年02月27日

日本における病院ラジオの可能性

ちょっと長くなりますが、先日学会発表した抄録を転記しておきます。
実際の発表の様子は
番組内で放送しました。
それを
FM看護系ナイト2のブログページ
http://fkn2.seesaa.net/
でお聞きいただけますので合わせてご確認いただけると楽しさ2倍です。



日本における病院ラジオの可能性
〜看護師としてラジオ番組を放送してきた立場より〜
(病院ラジオ 入院生活環境 コミュニケーション)
鎌田智広 (FM看護系ナイト2)



はじめに
 「病院も患者さんから選ばれる時代に」と言われている現在、各病院が医療・看護の充実はもちろんのこと、患者一人当たりの占有面積を広く取るなど入院生活環境の快適さを追及する動きがある。しかしそれは、設備としてのアメニティーの充実を改善する動きが中心であり、生活環境総体としてのアメニティーの充実への取り組みは弱いのではないだろうか。入院生活は「TVを見る」生活にひたりがちだ。だが病床で画面を見続けることは姿勢の維持や同室者への配慮をはじめ体力と気力を要する行為である。加えて、その生活は単調になりがちだ。
 そこで提案したいのが病院独自のラジオ放送である。「人間最後まで耳は聞こえる」と看護学生時代に教員に教えていただいた。ラジオはターミナル期の患者であっても聴くことが出来る。送り手と受け手の距離が近く機動性に優れ映像に比べ低コストで製作できるというラジオの特徴もある。病院独自のサービスとしてラジオ放送を患者に提供し、楽しく有効な時間を提供することはできないか、看護師としてラジオ番組を企画・製作・出演してきた経験とインターネットによる調査結果・聞き取り調査結果により検討した。

活動報告
 2005年5月12日より京都三条ラジオカフェ(79・7MHz)にて毎月第1第3木曜日16:00より30分生放送番組「FM看護系★ナイトを」放送開始した。「京都三条ラジオカフェ」とは市民による市民のための放送局として2003年3月31日に放送を開始した、日本初の特定非営利活動法人(NPO法人)による放送局だ。看護師という立場からも市民にむけて情報発信できないかと考え、看護師が看護師の視点で放送する番組を開始した。その活動の様子は、新聞・TV・ラジオ・雑誌など各メディアで紹介されている。2006年7月より毎週月曜6:30録音放送「FM看護系ナイト2」に変更し、2007年9月現在通算89回放送した。過去の放送は、電波の届かない地域の方たちにも聴いていただけるようポッドキャスト配信を行っている(http://fkn2.seesaa.net/)。
2007年5月12日京都府看護協会看護の日イベント会場とスタジオを中継して「看護の日を国民の休日に」をテーマにした2時間の生番組や、看護と政治の関係を考える番組「ナースのための選挙講座」などの特別番組を放送している。
番組内での会話の一部として次のような場面があった。
ナース「入院して看護師さんと接してみてイメージと現実で違ったことありますか?」
入院患者「看護師さんって白衣の天使じゃないですか。だから・・・タバコ吸わないと思ってたんですよ」
(スタジオと病院とを携帯電話でつないでの生放送にて)
ナース「(母が)夜勤でいない時、寂しかった?」
男性「小学生の時は寂しかったです。でも中学生になると嬉しかったです、自由にできて」
(看護師を母に持つ男性をゲストに迎えて)
ナース「看護師さんと仕事で関わることありますか?」
弁護士「離婚調停の時ですが、看護師さんは気持ちいいですね、お金なら要らないから別れてくれって感じで」
(弁護士さんをゲストに迎えて)
ナース「入院してみて病院ってどうでした?」
女性「あまりにも無機質で、絶対に病院では死にたくないと思いました」
(NHKラジオ女性レポーターより)
ナース「看護師を取材していて気が付いたことありますか?」
編集者「遠方から高い交通費を使ってセミナーなどに自費で参加し、さらに専門書を買っていかれる勉強熱心さに驚きました」
(看護雑誌編集者をゲストに迎えて)
調査1)インターネットによる調査
 2007年6月メディアとしてのラジオの現状を調査した。その結果「2005年2月電通ニュースリリースよりインターネット広告費、ラジオを抜く」という記載があった。
 2007年7月インターネットを使用し海外の病院ラジオ導入状況を調査した。イギリスHBA(Hospital Broadcasting Association)ホームページによると397病院が病院ラジオを実施しており4257人のボランティアが運営に参加していることが紹介されている。
調査2)電子メールを使用しての聞き取り
2004年JASRAC関係者への音楽使用への聞き取りをおこなった。「病院内での音楽利用に関しては音楽療法ということでフリーである」という回答を得た。
2007年8月アメリカでRNとして働く日本人にアメリカでの病院ラジオの導入状況を聞き取り調査した。メールにて計6回やり取りし「勤務病院ではベッドサイドTVより病院オリジナル音声有線放送がある」との回答を得た。

考察 広告ビジネスにおいて2004年にラジオはインターネットに追い越された。一見、日本ではラジオというメディアが衰退し、TVの一人勝ちの感がある。
 しかし、高齢の入院患者さんが夜間ラジオをつけっぱなしにしているケースを目にしたことはないだろうか。これはNHK「ラジオ深夜便」という大人気番組の影響である。高齢者だけでなく、大阪の放送局FM802が若者から絶大な支持を受けカーラジオから音楽情報を入手する人も少なくない。震災時に地域のコミュニティーFMの活躍が報道されるなどラジオの存在自体が否定されているわけではない。また、板倉は「ラジオを聴く習慣を持つことが脳を活性化する・ラジオは脳の一部ではなく、脳全体の部位を鍛える」と述べていることから、健康促進に寄与するとも考えられる。このようにラジオは、ひとつの情報ツールとして現在でも重要である。
 そこで、病院ラジオである。既存の放送でも健康番組が人気であり、入院患者からのメッセージを積極的に取り上げる放送もある。イギリスでの例では娯楽と療養生活のための情報として多くの病院が独自の放送として取り組んでいる。
単に情報を発信するというだけでなくコミュニケーションツールとしてとらえることもできる。普段病室での看護師・患者関係からは生まれないような会話が飛びだしたり、思わぬ本音が引き出せる時がある。これは対面ではない普段とは違ったシュツエーションがもたらした結果であろう。このように医療スタッフと患者とのコミュニケーション、また入院患者同士でのコミュニケーションが今までにない形でつくられる可能性がある。
 さらに1993年に病院独自の有線放送局設立を唱えた小林は「こうした試みは最終的には、スタッフや経営者側の活性化にもつながる」と述べている。職員の生き生きした様子が患者に伝われば、選ばれる病院としてのひとつの要素になりえるのではないだろうか。

まとめ
病院独自のラジオ放送導入の可能性を検討するために、看護師がコミュニティーFMで独自の番組制作を行った実践事例と、インターネットを通じた英国の事例調査、そして米国在住の日本人看護師にヒアリング調査を行った。それらを総合すると、病院独自のラジオ番組の制作と放送は、入院環境における患者のQOL向上のみならず、医療スタッフにおける円滑なコミュニケーションが生じ、より快適な療養環境を導くことができる可能性をみることができる。

課題と展望
取り組みへの課題には、経費と人員問題がある。導入経費は電波放送ではなく、すでに配備されているTVの有線網を使用すれば抑えることができる(病院紹介番組を無料で放送している施設などはそのチャンネルを使用することができるため導入がスムーズである)。運営経費は放送という形から広告収入ということになるが、病院情報誌にも広告が掲載されているケースを見ることができるため可能であると考える。人員であるが出演者・技術者とも放送の初期段階では必要であるが、ボランティアスタッフの育成やマニュアルの制作・委員会活動の設置から、専任スタッフ配置からの脱却も十分可能である(すでに施設案内・朗読サークルなどボランティアスタッフが病院に介入している施設はある)。また、開局4周年を迎えた京都三条ラジオカフェでも議論されていることであるが、単に継続するだけでなく番組の完成度をいかにあげていくか、番組の質の向上も大きな課題である。

謝辞 今回この研究をまとめるにあたり、多大なるアドバイスをいただいた京都三条ラジオカフェ番組審議委員長・山口洋典同志社大学大学院総合政策科学研究科准教授ならびに、番組に参加していただいたゲストの方々、なにより放送を聴いていただいているリスナーの皆さんに感謝したい。

引用文献
1)小林光恵:看護婦の愛情いっぱいおしゃべりカルテ、ぴいぷる社、1993
2)板倉 徹:ラジオは脳にきく、東洋経済新報社、2006
参考文献
1)真野俊樹:医療マーケティング、日本評論社、2003
2)宗田勝也・山口洋典:人間の安全保障から考える市民メディアの役割、国際ボランティア学会、2007
3)JAGAT:電通・2004年のインターネット広告費、ラジオを抜くhttp://www.jagat.or.jp/story_memo_view.asp?StoryID=8698
4)HBA:HospitalBroadcastingAssociation http://www.hbauk.co.uk/public/
5)インターネットラジオによる情報支援ツールの設計http://radiofly.to/radiobuilder/2001-05-18-wit.html
6)串間努:日本初、コミュニティー放送による「病院ラジオ」設立の可能性、東京大学医療政策人材養成講座http://www.hsp.u-tokyo.ac.jp/img/activity/1-kushima.pdf
posted by カマーチョ at 15:31| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
板倉先生の最新インタビュー「脳を鍛えたければラジオを聞け!」です。http://toyokeizai.net/articles/-/62984
Posted by しょうじ at 2015年03月25日 17:00
コメントありがとうございました
記事拝見しました!
板倉先生は、ラジオについての講演をしていただいたことがあります!
懐かしい!
Posted by カマーチョ at 2016年03月14日 23:20
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